1、目論み
造形は1時間以内で設定条件を満たす絵を描き上げる試験であるから、効率的に進めなければならない。さらに、合格を確かなものとするためは、設定条件を満たすだけでなく、仕上げもできるだけ良くしておきたいところだ。
まずは、設定条件を満たすための下書きを能力限界までハイペースで進め、余らせた時間で縁取りなど丁寧にしあげようと目論んだ。
しかし、試験開始前に起きたハプニングによってこの目論見は外れることとなった。このハプニングさえなければ、満足のいく出来になったかというとわからない。もし、十分な実力を備えていたならこの程度では合否は脅かされないだろう。
要するに私はまだ、合否のボーダーライン上にいるのだ。少なくとも自分ではそう思っていた。ハプニングという言葉は大げさなようだが、合否のボーダーラインにいる者からみると合否に関わる重大な出来事だと思う。
2、不可解な出来事
会場は、福祉系の専門学校で、私は教室の窓際列の最後尾の席で試験開始を待っていた。
試験官の受験に際しての注意事項の説明の後、試験用紙が配付された。
配付方法は、最前列の受験者が1列分の受験者の問題用紙と回答用紙を受け取ったら、そこから自分の分を抜きって、残りを後ろに回していくというやり方である。
待っていると、A3用紙、1枚だけ前の席の受験者から送られてきた。
私が最後尾なので、後ろの分はない。
この後ろ送りの配付は、学校内の学期ごと試験ではよく見られる方法であるが、国家試験でこのやり方はやや意外な印象を受けた。色鉛筆など道具が多いからなのか。
しかし、この後、思わぬ事態に遭遇することになる。
定刻となり、試験官の開始合図と同時に用紙をめくった。
詳細は忘れてしまったが、確か、A3用紙の右側に問題文があって、そして、左側に絵を描くための枠となる長方形のラインがあったようだ。
急ぎ、問題文を読んで、求められる条件を頭に入れる。そして、もう一方の側にある枠をみる。
何かおかしい。少し作図枠が小さいように見える。
試験中なので、伏し目がちに他の受験者を見ると、もう1枚、作図用紙があって、既に、作画を始めている様子の受験者も見られた。
そこで、思い切って、手を挙げ、試験官に用紙がないことを伝えた。
試験官は、少し怪訝な顔をした。おそらく人数分ということで、余分の用紙はないのだろう。
すると、なぜか前の席の受験者が、試験官に向かって自分のところに1枚余っていると言うではないか。
試験官に促されて、前の受験者は、回答用紙を後ろに回してきた。
何かおかしいと思い始めてから僅か1、2分程度のことであるが、想定外の出来事に少し動揺してしまった。
前の受験者は、なぜ回答用紙を回さなかったのか?
回答用紙が2枚重なって気づかなかったという可能性もある。
しかし、その直前に配付された問題用紙は後ろに回しているのに、回答用紙は回すものがないのに気づかないのは変だ。もし、後ろの分が足りないならそのように言うべきではないか。まさかわかっていてそんなことをするわけがないと思いつつも、疑問が次々と湧いてきた。
これまでの筆記試験の際に、奇異な目で見られていると感じたことが頭をよぎった。確か、同じ教室に男性は私一人だったかもしれない。ただ、珍しいからとは思えなくなってきた。
試験官にしても、配付物がきちんと届いたかなぜ確認しないのか。やはり、問題が問われるとしたら、試験運営の方法だろう。
しかし、この状況でそんなことを考えていては、これまでの練習の成果を生かすことはできない。
悪い考えの連鎖を断って試験に集中しようとした。


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